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up and ups just fine

少なくない犠牲

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UTMFのことだけを考えてトレーニングをしてきたから、他の大会で代替できないことはわかっている。ただ、1年半にかけて溜め込んできたエネルギーはどこかで放出しないと、一瞬で空気が抜けていく風船みたいに、向かう先もなく彷徨って最後は地面に落下する様は想像に難しくなかった。

同じモチベーションではないけれど、ピリオドを打つために彩の国100mileに出ることに決めた。そうと決まれば情報収集したり試走に行ったりと、落ち込んだ気持ちも少しずつ晴れて、新たな活力としてかなり救われた。里山を繋いだコースの彩の国は、ベースの標高は低いものの、累積標高は10,000mを超すハードな100mileで、国内最難関と言われている。自分自身、相性のいいコースだと思っているので、いつかは出てみたい大会だった。実際に試走をすると、小刻みなアップダウンを永遠に登っては降りてを繰り返す独特な地形には苦戦した。高尾のトレイルでも数字上は同じレイアウトを組むことはできるけど、まったく別物の疲労度であることはすぐにわかった。これはワクワクする。

 

UTMFより1ヶ月後に開催される彩の国を目標にすることは、さらに1ヶ月トレーニングが延びることを意味する。たかだか一ヶ月。ピーキングに入る手前での延長だったから特に問題はない。そう、平時であればコンディションのことだけを気にすれば良かった。でも今の我が家はちょっとした有事。コロナ禍で不安定で、そして6月末には子供が産まれる。出産を考えると4月末のUTMF出場が時期的に最後のチャンスだった。それが1ヶ月延びて、おまけに本命レースではないとなると、家族の合意を得るのはなかなか難しい。自分も頭の中では辞めるべきかと考えながら、そえでも1ヶ月の猶予はあるから最後の最後が彩の国とも考えていた。そして、1年半かけて溜め込んできたエネルギーを発散せずには終われなかった。しっかりと彩の国を走る。そして2021年は、或いは2022年まで大会を目標にしたトレーニング生活からは一旦離れることに決めていた。

 

結果的に、彩の国は走らなかった。それは、感染拡大を理由に日程が1ヶ月延びて6月になったからではなく、最終的に2021年大会が中止となったからでもない。延期の発表がある前から、自分で降りることにした。後ろ髪を引かれる思いはあったけど、自分の決断で辞めることを選んだら案外すっきりとした。大袈裟かもしれないけど、もう大会という舞台に同じモチベーションと準備期間をかけて戻ってこれないかもしれない、それもリアルに感じつつ、それでも受けいるれることとしよう。

「この大会を目指すために、少なくない犠牲があったと思います」

UTMF実行委員の福田六花さんは中止の会見で言った。自分自身で自覚はなかったけど、不意に叩かれるような感覚だった。仕事と家族以外の時間すべてをランニングに注ぎ込んだ1年半。トレーニングのために早起きして、仕事と生活をこなし、また翌朝のために早く寝る。それの繰り返し。

得るものは多かった。身体性が磨かれていく感覚。目標があることの意義。走ることが好きで、何より熱くなっている瞬間が好きだった。反面、余白がない生活では新しいことに手を付ける時間はなかった。やるべきだとわかっていながら先延ばしにしたこと。自分の、或いは家族の将来については先送りにしてきた1年半だった。ここまで走らなければ、家族とも余裕をもって過ごすことができたはずだ。迷惑をかけたとまでは言わないけど、もっと一緒に過ごせたかもしれない。

走っている時間、熱中している時間はその瞬間が眩いだけに、他のことがどうでもよくなる事がある。興味の範囲も減ったし、走ることと比べたら下らないと思う分野も増えた。ていの良い理由で、見たいものしか見てこなかったとも言えるかもしれない。

「少なくない犠牲」

未だに頭から離れないこの言葉。熱中への名残惜しさを噛み締めつつ、今は犠牲にしたものと向き合っている。と言うと大袈裟だけど、未来に向けて地ならしをはじめたところだ。最近は全然走れていない。走ることについて語る事が恥ずかしくなるくらいに、距離も回数も大幅に減った。あれだけ引き締まっていた筋肉は落ちきって、自分の脚を見るたびに悲しくなる。たまにロードを走れば10kmもせずに息が切れて集中力が続かない。あぁ、もう戻れないかもな、と本気で不安になる。

それでも、たまに走ると気持ちがいい。ゼロを通り越してマイナスまで落ちきったけど、過ぎ去ったものに囚われず、未来に期待したいと思っている。「限られた時間の中で、ベストを尽くす」これが自分のテーマじゃないか。ベストパフォーマンスからはほど多くても、その瞬間でベストな自分を目指すことは、自分にとってのテーマだったはず。